3人だけになった教室。


「……前原って、言うときは言うんだ」


ポツリ、呟くみたいに言ったのは朱里。


「思ったよりいい奴じゃん……」


続けて梨花が言う。


……そう、そうだよ。

前原くんはいい人。

みんなが思っているより優しくて強くて、
ずっとずっと素敵な人だよ。


私が一番知ってる。
私が一番近くでみていた。

それなのに──。


なんてことを私はしてしまったんだろう。

ふたりの言葉に頷くことすら出来ない。


前原くんは自分のことなんてかえりみず、私を庇ってくれたのに、

私は……私は──。


「実優?」


隣に立った梨花が、声をかける。


『朱里たちにはちゃんと言う……言わせて!』


今朝の、図書室での自分の発言が頭の中で響いて。

その言葉に微笑んだ、前原くんの表情が思い浮かんで。


『迷惑かけて、ごめん』


さっきの……前原くんの言葉。


私は込み上げ溢れそうになる声を堪えて、ぎゅっと下唇を噛んだ。


だって、こんなの卑怯だ。

一番最低な嘘をついて裏切った。


そんな私に、泣く資格なんかないのに──。