言いたい、言えない、キミが好き。


本当は違う。田澤くんのことに、渡辺さんのことは関係ない。

それを伝えるのは簡単なはずなのに、私の頭の中はさっき聞いた悪口でいっぱいになっていて。


「ありがとう……」


不安と、味方してくれるふたりへの感謝で、ひと言そう返事するのが精一杯だった。


そんな私の気持ちを汲み取ったのか、それからふたりは必要以上に田澤くんのことを聞き出そうとはして来なかった。

そして、私自身も前原くんのことを伝えるどころじゃなくなってしまった。


クラスのリーダー的存在の渡辺さん。

相手が相手だけに面倒だと言った梨花の言葉通り、大っぴらには何もしてこないけど、彼女の友達を中心に、さり気なく無視されたりした。


明らかに今までとは違う、数人の冷たい視線。

良い意味でも悪い意味でも目立たず、これといったトラブルを起こすこともなく、平穏に過ごしてきた私は、初めて向けられた悪意にビクビクしていた。


ちょっとした出来ごとでさえも気になって……早く1日が終わることを願った。

……だけど。