勘違いじゃなかったんだ。
やっぱりわざと、だったんだ……。
手のひらの中、そのまま持ってきてしまった消しゴムを、私はぎゅっと強く握る。
そこへ、
「菜々子のやつ……!」
突然耳に入ってきた声。
振り返って確かめようとすると、怖い顔をして女子トイレに進もうとする梨花がいた。
「だめっ!」
私は咄嗟に腕を掴んで引き止める。
「何で!?」
「だって……」
この様子だと、私の悪口を聞いてしまったんだろう。
梨花の隣には朱里もいる。
「別に何かされたわけじゃないし、あんまり騒ぎにしたくない……」
「でもっ!」
「梨花」
頭に血が上った梨花を、諭すように名前を呼んだのは朱里。
梨花は開いた口を、ぐっと我慢するように一度閉じると、
「わかったよ。じゃあ行こう」
掴んでいた私の手を逆に掴んで引いて、歩き出した。
「行こうって、どこに?」
「1階のトイレ!」
「あのままあそこに行くわけにはいかないでしょ!」と、続ける梨花。
「え、あ……」
そっか、私がトイレに行くって言ったから。
本当は逃げちゃっただけ……なんだけど、梨花の気遣いを無駄にはしたくなくて、私はそのまま1階まで行くことにした。



