言いたい、言えない、キミが好き。


前原くんのことが好きなんだって、ふたりに言おうとした。

だけど、それは最後まで言葉に出来なかった。なぜなら……。


田澤くんが立っていたから。


野球部の友達たちと一緒に階段を上がってきた田澤くんが、鉢合わせるかたちで目の前に立っていた。


「あ……」


慌てて目を逸らし、口ごもる。すると朱里と梨花も田澤くんに気付いたみたいで、「あっ」っていう顔をした。


気まずい空気。

そのとき、私を助けてくれるみたいに鳴ったのは、チャイムの音。


「こらー、早く教室入れー」


別のクラスの担任が歩いて来るのが見えて、私達はバタバタと教室の中に駆け込んだ。


ひとまず、助かった。
でも……どうしよう。

何だか、とってもややこしい展開になっちゃった気がする……。


ぐるぐると回る頭の中。

逃げるように自分の席まで足を運んだ私は、鞄と腰を下ろして小さく息を吐いた。

……だけど。


「ねぇねぇ望月さん」


呼ばれて反射的に振り向くと、


「おい」


田澤くんが、名前を呼んだであろう男子の肩を掴んで止めていて。

不意に田澤くんと目が合った私は、慌てて顔を逸らした。