「でも、それがどうかした?」
私が首を傾げると、
「実はその後を歩いてたんだ」
前原くんは苦笑しながらそう言った。
「もちろんはじめは何とも思ってなくてさ、前に人が歩いてるな、くらいだったんだけど……。校門の前で望月さん、自分が巻いてたマフラーをその子に巻いてあげたんだ。頑張れ、気をつけて行くんだよ……って言って」
「それ見て、何かいいなって思った」と、続けて微笑んだ前原くん。
その言葉と表情に、胸の鼓動がドキッと高鳴る。
正直、マフラーを貸してあげたとか、そのときのことはそれほど鮮明に覚えていない。
だけど、前原くんはそんなに前から私のことを見ててくれたんだ……。
そしてそれは、前原くんだけじゃない。
「望月さんだって寒がりなのに、本当に優しいよね」
「あっ、それ……!」
ふと思い出した出来事は、私が前原くんのことを意識したきっかけ。
同じ入学式の日、緊張して震えていると、カイロを差し出してくれたこと。



