結局、本当の気持ちは何ひとつ言うことができないまま、数日が過ぎた。

朱里と梨花の間では、私の“好きな人”はすっかり田澤くんになっていて……。

それは、とある日の放課後のことだった。



「ね、実優」


6限目の授業が終わり、教室の掃き掃除をしていると、何やら嬉しそうに梨花が話しかけてきた。

「どうしたの?」と手を止め、私が聞く。すると梨花は、教室の中をチラッと目で確認した後に、


「今日の日直、代わってあげる」


私の耳元でナイショ話をするように囁いた。


「……え?」


今日の日直……って、今日の仕事はもうほとんど終わったに等しい。

黒板も既に消してあるし、かろうじて残っていることと言えば、日誌を書いて先生に提出することくらい。

それに『代わってあげる』って、その言い方はなに?


「何か用事でもあるの?」


腑に落ちないものを感じながら、とりあえず聞いてみた。

用事があって急いでるから、代わって欲しいのかな……って、純粋に思って。