自分自身で良いことをしたとか、感謝してほしいとか思っていたわけではないけど……前原くんはきっと、『ありがとう』って言ってくれるものだと思っていた。
だけど、
「……」
目の前に立っているはずの前原くんからは、何の言葉も聞こえない。
あ、あれ……?
もしかして、引いちゃってる……とか?
パッと顔を上げてみると、前原くんは目を真ん丸にしてキョトンとしていた。
「あ、えっと……」
「望月さん」
「はいっ!」
名前を呼ばれて、ピンと背筋を伸ばす。
余計なお世話だとか、さすがに気持ち悪いとか言われたらどうしよう。
怖くてドキドキして、胸元にやった手にぎゅっと力を入れた……そのとき。
「それ」
「へ?」
「こんなとこまで来なくても、それで連絡くれれば良かったのに」
そう言って前原くんは、私の手元を指差した。
私がぎゅっと握りしめていたものは……灯り代わりに使っていた、自分のスマホ。
「……あ、あっ⁉︎」
指摘されてやっと気付いた。
そうだ、スマホ!
前原くんの連絡先を知っているんだから、電話でもLINEでもしてみれば良かったんだ!
必死すぎて、考えもしなかった。



