「前原くんっ」
月明かりだけが照らす道。
立ち止まったら動けなくなりそうで、私は走りながら彼の名前を呼んだ。
虫の鳴き声しか聞こえない静寂の中。
まだ帰っていないのなら聞こえるはず。
お願い。
早く、早く届いて! 返事して!
「っ、前原くんっ!」
さっきどの辺りで会ったとか、自分が今どのくらい走ったとか、全然わからなくて。
もしかしたら本当に会えないんじゃないかって、弱気になりかけた……そのときだった。
「望月さんっ⁉︎」
向かい側から聞こえた声。
最初姿は見えなかったけど、お互いに走って近付いて、すぐに顔までハッキリと見えた。
「よ、良かったぁ……」
「何で望月さんがここに⁉︎」
両膝に手をついて安堵する私とは対照的に、びっくりした顔を向けるのは前原くん。
やっぱりまだ帰ってなかったんだ。
会えて本当に良かった……。
「肝だめし、もう終わったから……。前原くん、知らないと思ってっ……」
走ったせいで息が切れて、途切れ途切れになる言葉。それでもちゃんと聞き取ってくれて。
「それを教えにここまで……?」
前原くんの問いかけに、私はこくんと頷いた。



