「……」


寒くて震えていたわけじゃないんだけど……。

私の手に残されたカイロは、見当違い。
だけど、それはポカポカとすごく温かく、私の表情には自然と笑みが浮かんでいた。

彼の優しさが嬉しくて、震えるくらいの緊張が少しほぐれた瞬間だった。


その……カイロを渡してくれた男子っていうのが、他でもない前原くん。


それから彼は、私にとってちょっとだけ特別な人。

好きっていうのとは違うけど、恩人……っていうのかな。

もともと引っ込み思案な性格もあって、タイミングが掴めなくて、『ありがとう』とお礼を言うことも出来ずにいるけど……心の奥では、ずっと感謝してる。

そんな人だから、自分の親友にあんな風に言われちゃうのは、あまり心地よいものではないんだけど……。


「はぁ」と、もう一度ため息をつく。

周りを気にしちゃって、親友にさえ思っていることが言えない自分は、ずるくて嫌なやつだ。