透明な海



「なにその特技。役にも立たねえだろ」

「前は暇つぶしになってたんだけどね」

「隙間時間になにしてんだよ」

「小学校の授業って、退屈じゃなかった?」

「……まあ。『うおやっべえ超楽しい、まじ何時間でも続けばいいのにー』とは一ミリも思わなかった」

「でしょう。それで、先生の身長を予想して時間を潰すようになったんだ」

「ノート取っとけよ」

「取りながらだよ」

「器用かよ。つか他人様の身長なんてどう予想すんだよ」

「学校の教室なんて目安となるものしかないじゃん。特に授業中の先生の周りなんて」

「はあ?」

「まず黒板。小学校の黒板には、先生が使う長い定規みたいなのがくっついてたでしょう。あれを目安に、黒板の縦の長さをある程度見て、同じように床から黒板までの距離を見る。そうすればもう、その前に立つ人の身長なんてほとんどわかるじゃない」

いやわかんねえ、と潤はかぶりを振った。

「つかわかりたくもねえし。てか、黒板の定規の長さはどう知るんだよ」

「休み時間に同級生が先生の真似みたいな感じで遊んでて、だいたい一メートルかなと」

「お前怖い。やっぱ怖い。……とりあえず訊くけど、体重にはなんで手を出した」

「ほとんどの先生の身長が予想できて、他になにかないかなって」

「……お前、間違ってもおれ以外の人間にその特技暴露すんなよ? おれは黙っててやるから。約束するから」

「まあ、他の人の身長体重なんて興味ないんだけどね」

「もうただの嫌なやつじゃんか。興味ないにしても、絶対平均値を基に相手のことなんか思うだろ?」

「ううん、なにも。誰が何センチで何キロでも、言ってしまえばおれには関係ない。その人にとやかく言う資格もない」

「……つまり、あくまで暇つぶしだったと。友達同士で血液型予想しあうみたいなもんだと」

「似てるかもしれないね」

「で、なんでやめたんだ? 前は暇つぶしになってたって言ったよな」

「ああ、普通に失礼かなって。他人の情報の一つで暇をつぶすなんて。今となっては忘れたい過去の一つだよ」

「ああそう。その感覚、一生忘れるなよ」

「そうだね」