十織だって人間なのだ。自分となんら変わらない。ゆえに当然、なにかを求め、望み、願う。その求めるものの中に誰かの存在があったところで、それはおかしなことではない。
ただ、純粋なのだなと潤は思った。
自然に、自分のために、なにかを求めたりすることがすっかりなくなっていた。今の彼が求めるのは、生命の維持に必要な最低限のものくらいだ。
機械のようだと思う。記憶した通りに動き、腹が減れば食べ、一日の最後、その日の役目が終われば眠りに就く。もっとも、機械ほど誰かに求められてもいないが――。
「ずっと一緒にいたくなる人って、なんだと思う?」十織が言った。
「ずっと一緒にいたくなる人?」
「そう。一緒にいる時間が堪らなく幸せで、それが終わると、虚無に似たなにかを感じる。そんな人って、なんなんだろうって」
「なんなんだろうもなにも、好きなんじゃねえの。その人のことが」
違うと思う、と十織は言う。
「おれはまだ、嫌いだと思う人に出会ったことがない。知る人みんな、好きか嫌いかに分けるなら『好き』になるんだ。だけど、全員に対してそう思うわけじゃない」
「じゃあ、十織にとって特別な人なんじゃねえの?」
「特別……」
「そう。恋愛感情、って言うのかもしれねえぜ?」
「恋愛……」
えっ、と十織は声量を上げた。
「これが?」
「どれだか知らねえけど。まあ、そうなんじゃねえの?」
「恋愛感情……か……」
「なにお前、恋したことねえの?」
「わからない」
「わかんねえことあっかよ。まあいい。なに、同級生かなんかか、相手は?」
いいや、と十織はかぶりを振った。
「幼馴染。その人と会うといつもそうなんだ。一緒にいる間、ずっとざわざわ衝動みたいなので体温が上がってる感じで、別れると、ぱっと風が止んだみたいにそれがなくなる」
「……結構な恋だな、それ。結構求めてんじゃね?」
「でもその人といるとき、幸せなんだけど、どこか悲しい気もする」
「片思い察してんの?」
「わからない。これって恋なの?」
「個人的にはそう思うけど」
「そうか」
「いや、おれの直感だけで決めつけるなよ? ただそいつとの時間が楽しいだけかもしんねえし」
十織は小さく笑った。
「十中八九、これは恋だと思う。普通じゃないから、あの感覚」
へえ、と潤は相槌を打った。