何度目かにあくびをすると、「寝不足?」と言う十織の声が喧噪を阻む膜を破った。

「いやあ……。つか十織、眠気覚ます方法とか知らねえの?」

「眠気を覚ます方法か……。寝る?」

「わかる。それに限るよな」

「と思うけどね。なにかあったの?」

「いや、大したことじゃない」


痛みは引いたと言っていたが、自分のベッドに寝かせた静香には今日も安静にしていろと伝えた。

仕事が休みの母親に彼女のことを話したところ、あたしがみておくと言われた。

あのあと寝付けなかったわけではない。数時間おきに目が覚めたが、その後しばらく眠れなかったわけでもない。


潤は薄く涙の浮かんだ目をこすった。

「なんかいいなあ」十織が言った。

「え、眠そうな人見てんの好きなのか?」

いや、と十織は苦笑する。

「なんか、普通だなって思って」

「ほう?」

「ほら」と言って、十織は後方を振り返った。真似るように振り返った先には家族連れや少年少女の集団が確認できた。

「何人かでいる人が多い。おれも、ああなってみたいなって思ってたんだ」

「へええ。まあ何人かって言っても、これ二人だけど」

「でもいいんだ。一緒にいてくれる人がいるだけで嬉しい」

「寂しん坊かよ」

「一人も嫌いじゃないんだけどね」

十織はそう言うと、静かに目を伏せた。

普段は冷たい印象を受けるその目に、今日は深い憂いを認めた。

一瞬、女子かと茶化そうかとも思ったが、声はそっと飲み込んだ。