静寂を揺らすエアコンの音に、扉を叩く音が混ざった。
「なに」と反射的に出た声を返す。
そっと開けられた扉から、「わたしだけど」と言う声が入ってきた。静香のものだった。
電気点けてと言われ、リモコンを操作する。
眩しいほどに明るくなった私室に、静香の姿が確認できる。
「……なに、まじで」
「いいでしょ、たまには」
「は? 一緒に寝るとか言うなよ?」
「言ったらどうする?」
「拒む。他に選択肢ねえだろ」
「いいじゃん、寝かせて」
拒んだら許さないと言って、静香はベッドに入ってきた。
邪魔と腕を叩いてくる妹へ、潤はお前だよと返す。
「ちょっとまじふざけんなよ、暑苦しい」
「寒いと思えば寒くなるから」
「馬鹿じゃねえの。いや確かに中三の妹がベッドに入ってくる事実は鳥肌もんなんだけど」
「いいでしょ。一緒に寝たい気分なの」
潤はため息をついた。
「……お前さ、出掛けた先でホラーに触れたとか言わねえよな?」
数秒の静寂があって、静香は「は?」と声を発した。
「出掛けた先でお化け屋敷入ったとか、怖いの観たとか」
「……違うし」
「へえ」
じゃあ電気消すぞと宣言してリモコンの消灯ボタンを押すと、「常夜灯は点けておいて」と静香は言った。
「……お前、しばらく前に真っ暗な部屋で寝られるようになったって自慢してきたよな」
「知らない」
「おれは知ってる。……お前、出掛けた先でホラーに触れただろ」
「……お化けとか怖くないし」
「……ならなんで常夜灯を点けておく必要がある。明るい部屋では睡眠の質が落ちると聞いたんだが」
「そんなの嘘だよ。なんでもかんでも鵜呑みにするの、やめた方がいいよ」
「なんかお前には言われたくねえ。あんなの作りもんだぞ」
「なにが」
「お化け」
「だから怖くないって言ってんじゃん」
「……じゃあおれになにか恨みでも?」
「どちらかと言えば感謝してる」
「ならこのまま寝かせてくれ」
「嫌だ」
「明かりがあると眠れないんだが」
「暗いと今日のわたしが眠れない」
「知らねえし。自分の部屋で煌々と点けて寝りゃいいだろ」
「だから一人じゃ嫌なの」
潤は再度ため息をついた。
「じゃあ、一緒に寝たい理由話してくれたら一緒に寝よう」
「どうせ理由のレベルによって断るんでしょ?」
「……いいや。どんな理由でもいい。話せ」
「馬鹿にしたらぶっとばすかんね?」
「生きた人間の方がうんと怖え」
じゃあ、と静香は言った。
「常夜灯点けて。そうしたら話す」
「わかったよ」潤はため息のように言った。
手元のリモコンの常夜灯のボタンを押し、さらに明るさを強めた。



