透明な海



家に帰って本を一冊読み終えると、どこかに出掛けていたらしい静香が帰ってきた。潤は閉じた本をダイニングテーブルに置いた。

ぼんやりとニュース番組を眺めていると、ピンク地に白の猫の顔が描かれたティーシャツに着替えた静香が戻ってきた。黒の短パンから、健康的な色の脚が伸びている。

「潤、お腹空いた」

「もうじき母上がお帰りになるだろう」

「お腹空いた」と繰り返す静香に、潤は苦笑する。

「なにが食べたい。あるもので作れるものなら作ってやらんこともない」

「じゃあホットケーキ」

「……素あったか?」

「お母さんが期限間近の見つけてたじゃん」

「……ああ、そういえばそんなこともあったかな」

「昨夜のことだよ?」

「はいはい。シロップ的なのあったか?」

「それはない」

「そのままかじるのか?」

「アイスがある。バニラアイス。それ載せると美味なのじゃぞ?」

「女子の好きそうな味ではあるな」

潤が腰を上げると、静香は「なにそれ」と口を尖らせた。

「そのなんか、わたしが女子じゃないみたいな言い方」

「言葉のままの意味だ、そんな深い意味は込めとらん」

「言い方だって」

「静香もおれのこと言えなくなりつつあるぞ。いい感じに思考回路がけがれつつある」

うわあ、と静香は表情を歪めた。

「なーんでそういうことばっかり覚えてるかなあ。引きずり男。小さいねえ」

「繊細と言え」

「図太い?」

くっそと苦笑して、潤はキッチンに入った。