「ああそうだ」潤は言った。「今夜用にレモンのデザートを作ろうと思うんだけど、なにがいい?」
「レモンデザートねえ。なんでもいいっていうのが本音だけど……」
「それが返ってきて困らなければ自分で考える」
はいはい、と静香は苦笑する。
「じゃあねえ……あっ、ロールケーキ食べてみたい。今日の昼間、テレビでやってたの。夏に食べたい爽やかデザート、みたいな感じで」
「レモンのロールケーキ……?」
「そう。やってたの、今日のテレビで」
「ほう。レモンのロールケーキ……」
「そう。やってたの――」
「今日のテレビで、な。うん、作ってみっか。レモンのロールケーキ」
やった、と静香は目を輝かせた。
「お母さんも喜びそうじゃない?」
「さあ、それはどうかな。あの人の喜びメーターは鈍感だから」
「喜んでくれるって。ニョッキもおいしかったって言ってたし」
「まあ。いや、あのお方がなんて言おうと普通に作るけど」
「やったね。レモンロールケーキとか絶対おいしいやつだよ」
潤は嬉しそうな妹の声を聞きながら携帯電話を取り出した。
料理製造マシーン・アニジャ、また一つ賢くなるなと思った。