マグカップを置くと、静香はそれを引き寄せ、「宿題進んだ?」と声を発した。

「なんで?」

「宿題やりに行ったんでしょ?」

「……なぜそれを」

「潤があんなおめかしするなんてショッピングモールとか行くときくらいだし、バッグ持ってたから。ちょっとした買い物なんかじゃ手ぶらだから」

妹の勘ってやつと笑みを見せる静香へ気味が悪いと返し、潤は蜂蜜レモンをすすった。

「お前は?」

「なにが?」

「宿題」

ふふと笑いをこぼし、静香は両手を広げた。

「いやあ、もうね。わたしくらいの秀才にもなってくるともう? 宿題なんて? なんていうかもう、敵でもないっていうか? そんなわけで、まだ手も出してない」

静香は咳払いした。ダイニングテーブルに肘を上げ、組んだ手に顎を載せる。

「もう少し、泳がせておこうと思って」

「それ夏休みのセリフだと思うぞ」

「ええ?」

「まだ入って間もないからと安心させ、あっという間に去る。やつが得意とする手口だ」

「ふっ……嫌だねえ。敵も調子に乗っているようだ。もっとも、最後に泣くのはあっちだけどね」

「リボンつけて返すってよ」

静香は大げさにため息をついて天井を仰いだ。ああと声を伸ばしながら体勢を直す。

「なんで休みだっていうのに宿題出すんだろうね。灼熱サマー楽しんでられないじゃん。完全にお疲れサマーだっつうの」

「サディストなんだよ、学校は」

「……なるほどねえ。それで喜べる人いるのかな?」

「まあ、やたらレベルの高い学校もあるくらいだからなあ……。いるんじゃねえの?」

「へえ。変わった人もいるんだね」

潤とは別ジャンルだねと笑う静香へ、潤はぴしゃりと、黙れと返した。