かつて当然のように使われていた言葉を見て、潤はぼんやりと考える。
今新たに得ている知識も、やがて古ぼけた写真のようになるのだろう。
古すぎて、なんとなくそれであるようにしか思われない。写真に写っている人物が誰だかわからないように、最新のものとしてその情報を得ていたおれたちも、遠い昔を生きていた人々としか認識されない――。
七瀬にこんなことを話せば、なんてひねくれた考え方なのだとか余計なことなど考えずに学んでおけだとか言うのかもしれない。
しかし、深いところで現状に意味を求める。
静香の「思考回路がけがれている」という言葉を思い出し、否定できないなと腹の中に苦笑する。
頬杖をついて問題文に目を通していると、少し離れたところに人の気配を感じた。
気配の元は一つ空けて隣の席におり、濃紺のワンショルダーバッグを背負った少年だった。黒のポロシャツにチノパンという衣類が、細長い彼の身を包んでいる。
少年は落ち着いた動作で道具を並べていった。書籍とノートを開き、さらさらと白の筆記用具を走らせる。
潤はその様を視界の隅に見ながら、大学生だろうかと想像した。
ふいに少年と目が合った。それを認めた瞬間、心臓が跳ねた。怖い、と反射的に感じたためだ。
目を逸らして、ええと腹の中に声を伸ばす。
潤は息をつき、なにを考えているのだと騒がしい己の脳内を静めた。
相手の少年になにか変わったところがあるわけでもない。至って普通な少年だ。
第一印象で相手の多くの部分を決めつける――潤の、自分を含めた人間の嫌いな部分の一つだ。
所詮、人間など皆同じようなものだ。特別な人間など存在しない。彼だってそうだ。ただ少し、目元から冷たい印象を受けるだけだ。
ああ、と声を出したくなった。
人間は単純だ、と改めて思った。同時に、なんて自分はそれらしいのだろうとも思った。
人間は視覚からの情報に最も左右されやすいと聞いた。
潤は深く息をつき、シャーペンを握り直した。



