「『絶対残ってっし、卵』?」

ふうん、と静香はねっとりと声を続けた。

潤がついたため息は店内の陽気な背景音楽に巻き込まれた。

「それなら、なんでわたしたちはここに?」

「……十個入りの卵が半分以上残っている確率は六十パーセント。残っていない確率も十分にあった」

「四十パーセントだけど」

「十分だろうが。十人いたら四人がそれを持ってるんだぞ」

「持ってない人はそれより二人多いけど」

「騒々しい。さっさと買って帰んぞ」

潤が歩みを再開すると、静香は不満げに声を発してあとをついてきた。

「じゃあお菓子も買って?」

「おれの財布に無関係なら」

「自分で買えってか」

「当然だろうが」

「けちん坊だなあ。けちな男はもてないぞ?」

「男になんでも買ってもらおうとする女も似たようなもんだと思うけどな」

うわ、と静香は露骨に嫌な顔をした。

「本当にそういう言い方ばっかりだよね」

「事実だろ」

「そういう賢い人ぶった喋り方、やめた方が人寄ってくると思うんだけど」

「別に人が寄ってくることに願望も欲望もない」

はあ、と静香は息をついた。

「学校で話し相手とかいる?」

「いないことはない」

「その人大変だろうね、なにを言っても否定される」

「思ったことを言ってるだけだ」

「空気を読めって言われない? 相手の気持ちを考えろとか」

「目に見えないものに囚われるなんて愚かしいと思わないか」

「ある程度そういうものにも目を向けないと、円滑? 円満? な関係が築けないってこと」

「特別な人間関係を築くことなんて望んでない」

「そんなんじゃ平凡な人間関係も築けないって言ってるの。まあ、潤がそれでいいならもういいんだけど」

「……なんで――」反射的に言葉を飲み込んだ。わざわざ妹に話すようなことでもないと思った。

「え?」と言う静香へ「なんでもない」と返す。

変なの、という声が聞こえた気がしたが、なにも返しはしなかった。