透明な海



放課後、七瀬は仲のいい女子生徒と教室を出た。

休み時間には女子高校生が好みそうな絵柄の紙に包んだ箱を交換していた。

「幼馴染にはどうするの?」と、七瀬はその女子生徒に尋ねられていた。

七瀬が答えるより先に、彼女とその友人は潤が話し声を聞ける範囲から去っていた。


潤は自宅へ戻ると、鞄を私室に置いて着替えを済ませ、目についた小説を手にリビングへ戻った。


解説をも読み終えて、彼は文庫本を閉じた。どんな物語を読んでも、同じ感覚を抱く。なんとも言葉には直し難い複雑な感覚、感情だ。

正確に言葉に直すならば、負の感情、もしくはそれを抱いている状態に限りなく近いという程度だ。


文庫本を閉じるのとほとんど同時に静香が帰宅した。

内から鍵を閉める音に、「蜂蜜レモン」と彼女の声が続く。それが彼女の“ただいま”のようなものだ。

「ホット」と言ってリビングの前を通り過ぎる静香へ、潤は「了解」と応える。それが彼の“おかえり”だ。


朝と同じようにマグカップを満たし、彼はキッチンを出た。

作っている間に戻ってきていた静香へ「お待たせ」と言って、カップを彼女の前に置く。

「さんきゅ」と微かな笑みを見せたあと、静香は「お腹空いたなあ」と呟いた。

「ピールとドライどっちがいい?」

「出た」と静香は笑う。「帰宅後のレモン祭り。嫌いじゃないけど」

「どっちがいい?」

「ビール」

「うん、ピールな。しばしお待ち」

「早くしてね」と背へ投げられた声へ、潤は「無理」と短く返す。


キッチンに入り、鍋をシンクに置いてゆっくり水を落とした。