「いやあ、ついに明日から夏休みだねえ」

じりじりと地を焼く太陽の下に建つ学校の一室で、七瀬は嬉しそうに言った。

「……楽しみなのか」潤は言った。

「そりゃあ楽しみでしょうよ。だってさあ? 一か月以上も休みなんだよ?」

「小学生かよ。お前は宿題という魔の存在を忘れているのか」

「宿題? そんなのが魔の存在だなんて大変だね」

「馬鹿にしてんだろ」

「だって。宿題なんか初めのうちに終わらせちゃえばいいんじゃん」

「お前なあ。そういうことができるやつばかりだと思ってくれんなよ?」

「なに、露木君、勉強できないの?」

「そんなこたねえけど。おれだぞ?」

「『おれだぞ』って言われてもピンとこないけど」

「そんで? かく言う七瀬はどうなんだよ、勉強」

「別に? 人並みだけど」

「へえ」

「露木君は?」

「おれだって。人並みだけど?」

「本当?」

「嘘つかねえし」

「ああまあ、確かにね。じゃなきゃ、恋人がいる人とか恋してる人に純粋な嫉妬の目なんて向けないもんね。あの嘘偽りないまっすぐな嫉妬の視線、あんなのは、嘘をつかない――いや、嘘をつけない人にしか送れないよ」

「……やっぱお前、基本的におれのこと馬鹿にしてるよな」

「なんでそんな解釈になるのよ。ただ素直に、露木君は純粋な人だなあって思ってるだけでしょうが」

「こんなこと言われるくらいなら不純なやつでいいし」

七瀬は頬杖をついて潤を見た。

「素直じゃないなあ。だから他人様の恋愛を純粋に応援したりできないんだよ」

くっそ、と潤は苦笑した。

「……ガムテープをよこせ。貴様の口を封じてやる」

「ええ嫌だあ。口荒れるもん」

ああそうだ、と言って、彼女はブレザーのポケットから飴を取り出した。

「飴ちゃんいる?」と言う彼女の声に「いらない」と即座に返す。

「糖分足りてないんじゃないの? だから いらいらするんだよ」

「いらいらはしてない。つうか普通、他人の衣服の一部になってた食品口に入れねえだろ」

「ええ? 衛生的な問題?」

だから とおり も食べないのかな、と七瀬は呟いた。

「それだけじゃねえ。言ったろう、おれは菓子類は好まない」

「ああそうか、高校生らしからぬ高校生だったね。でも蜂蜜レモンドリンクなんて、かわいいものも好きなんだね?」

「ありゃ菓子じゃねえ」

「まあね。ああ、あれおいしかったよ。また気が向いたときに作ってよ」

「覚えてたらな」

「ええ?」

「おれは興味のないことに関しては記憶力が仕事をしない」

「へえ。……大変なんだね」

「真剣に憐れむなよ。冗談だ」

「だから勉強できないの?」

「お前まじで黙れ」と潤は苦笑した。

「人並みにはできるっつうの」

ふふふと愉快そうに笑う七瀬へ笑いごとじゃねえしと返して、潤は頬杖をついて窓の外へ目をやった。