透明な海



自宅の敷地に入ると、線香花火の玉が落ちたような気がした。

いつもそうなのだ。ななといる間は線香花火がぱちぱちと体温を上げ、彼女と別れると火花が消え、最終的には火の玉も落ちる。

花の世話をしていた母親に「おかえり」と声を掛けられ、「おすそ分けもらってきた」と手元の容器を見せた。

「わあ、苔?」

「そう。庭に生えて困ってたらしくて、剥がすの手伝ったんだ」

「それで一部をもらってきたと」

「そう。ずっと育てたかったから、幸運だよ」

「へええ。えっ、どこで育てるの?」

「この苔がいやすい場所で」

「部屋で育てられるといいね」

「いろいろ調べてみる」


私室に入り、十織は携帯電話を取り出した。この種類の苔は失敗した例が多いといつか見た記憶がある。

ホソウリゴケを育てている人のブログを携帯画面に表示し、必要なものを記憶した。

携帯電話をポケットにしまい、財布の中を確認する。

問題ないと心中に呟いて頷き、私室を出た。


「買い出し?」と困ったような笑みを見せる母へ「ホソウリさんのおうちを」と返し、敷地を出た。