透明な海



「会場」に着くと、ななは足元を見て苦笑した。

「青々でしょう。もうわっしょいわっしょいよ」

「へえ、ホソウリゴケだね。かわいいね」

「かわいいかな。お父さんなんか、『このブロッコリーどうにかしといて』って、ブロッコリー呼ばわりだけど」

「ブロッコリーもかわいいと思うけどね」

「かわいいかな。まあいいや、とにかくまるっと、この子たちどうにかしてもらっていいかな」

「了解。えっ、全部剥がしちゃうの?」

「当然でしょう。どうにかしとけってお父さんに言われてるんだから」

そうなんだねと十織は苦笑した。

「適度に生えてれば綺麗だなと思って」

「いやいや」と、今度はななが苦笑した。「ブロッコリーに適度とかないし」と彼女は続ける。

「ていうか、これホソウリゴケっていうの? 苔に名前とかあるの?」

「そりゃああるよ」

「にしてもなんで十織はそんなこと知ってるの」

「苔欲しくて、一時期苔についてよく調べてたんだ。この苔は、日当たりがいい場所を好むんだ。ここはさぞ居心地がいいだろうね」

言いながら、十織はその場にしゃがんだ。「ふうん」と頷いて、ななも隣にしゃがむ。

「十織って本当、なんでも知ってるね。そういうところ、普通に好きだけど」

じゃあはいと差し出されたヘラを受け取り、線香花火が点くように体温が上がったのを感じた。