プラスチック用のごみ箱から、プチトマトが入っていたプラスチック容器をちょうだいして十織は家を出た。直前にアムールに声を掛けると、いつからかの当然に従って「気を付けるんだよ」と返ってきた。母親の声を覚えたものだ。
敷地を出てすぐのところで飴を咥えていたななに声を掛けると、「お疲れさん」と彼女は笑みを見せた。赤のジャージに灰色のスウェットという出で立ちだった。
「飴ちゃんいる?」とスウェットのポケットに手を入れる彼女へ、「大丈夫」と短く返す。
「入れ物って、こんな感じでいいの?」十織は手元の容器に視線を落とした。
「ああ、いいんじゃない? そんなに大きなもの入れるわけでもないだろうし」
「ふうん。え、おれはなにを手伝えるの?」
「ああ。いやあね、ついに梅雨という季節がやってきたでしょう? そうするとさ、雨が降るでしょう。毎日のように。飽きずに」
「そうだね」
「まあ今日は曇り程度なんだけど。そんでね、雨が頻繁に降るこの季節の、適度に日が当たる場所って、どうなると思う?」
「ええっと……水溜まり? ぬかるみ……湿度が高くなるとか?」
「正解」と言うななへ「おお」と返し、「苔が生えるの」と続いた彼女の声には「ん?」と返した。
「そう、苔が生えるの。やっと本題なんだけど、十織には今日、庭の苔剥がしを手伝ってほしいの。道具はうちにあるから」
「……えっ、じゃあこの容器って」
「そう。生き物大好きな十織に、おすそ分けしてあげようかと。ああ、十織が純粋に欲しければね」
強制はしないよと笑うななへ、十織は素直に「嬉しい」と返した。
「苔、ずっと育てたかったんだ。でも当然、他人様の敷地から勝手に採取はできないしで困ってたんだよ。ええ、いいの?」
「いいもなにも、こっちは苔祭り開催中で困り困りなんだよ。むしろもらってくれた方が助かる」
じゃあ早速会場に行こうかと言って敷地に入ったななのあとに、十織は「失礼します」と続いた。



