透明な海



学校内も情報の宝庫だ。

同じ教室の生徒たちも、見る度に違う様子でいる。同じ状態、同じ様子の教室は二度とない。


「なにかあった?」十織は言った。

通路を挟んで隣の席の女子生徒の様子が、いつもと少し違う気がした。

当然、彼の勘違いという可能性だってある。実際にそうだった場合もあった。

それでも放っておけない、というのが十織の思いだ。相手になにもできなくても、おせっかいだの気味の悪いやつだのと思われる程度だ。


女子生徒は困ったように笑った。

「消しゴム……忘れちゃったみたいで」

「ああ、それなら」

十織は机の中のペンケースから新しい消しゴムを取り出した。

「これ、もしよかったら使って」

「……下谷君は?」

「大丈夫。そのうち新しいものに変えようと思ってて買っておいたの」

「……そう?」

「今使ってるものなら、まだしばらく使えるから」

よかったらと続けると、女子生徒は「じゃあ、今日だけ」と消しゴムを受け取った。

「ありがとうね」と笑みを見せる彼女へ、十織は「ううん」と首を振った。