十織は庭の花にそっと手を添えた。花はそれを感じるようにふわりと揺れる。
「おはよう。今日も元気そうだね。今日は夕方から夜、少し寒くなるみたいだよ」
冬ほどではないけどねと続けると、斜め前方に人の気配を感じた。
視線が重なると、彼女は「やあ変態十織君」と笑みを見せた。
「なな。おはよう」
「おはよう。姿が見えたから遊びにきた」
「そう。いらっしゃい」
ななは小さく笑った。
「朝からお花とお喋りですかい?」
「健康状態の確認をね」
「健康状態?」
「花自体の状態と、土の状態と」
「へえ。問題ない?」
「大丈夫そうだよ」
「へえ。本当に生物が好きなんだね。……なんでそんなに?」
「綺麗だから」
「確かに花は綺麗だけど……」
「花に限らずだよ。生き物はどれも綺麗。生きてること自体が、綺麗だなって」
「へええ」
「おれ、生き物見てるときが一番幸せなんだ」
十織はもう一度花に触れた。花弁のしっとりした感覚が幸福感を掻き立てる。溢れそうなそれを調節するように、彼は一度深く呼吸した。
「毎朝、家にある全部の植物の状態確認してるの?」ななは言った。
「そうだよ。自分の部屋のから始まって、次にベランダ、最後、家を出る前に庭の花々」
「へええ。これだけいっぱいあってめんどうに思っちゃわないんだから、もう生き物に接するプロだよね」
「こんなことにプロもアマもないと思うよ?」
「まあそうなんだろうけどさ」
十織は花から手を離した。