「バレンタイン嫌いなの?」
「嫌いだ。どいつもこいつもがうかうかしやがる。意中の相手に甘いものを突き付けるのがそんなに楽しいか。くだらない」
「楽しいでしょうよ。バレンタインで初めて告白する人だっているだろうし」
「わざわざ愛の告白なんかする必要ないだろう。重っ苦しい」
「重い?」
「眼中にない人物からある日突然、恋愛感情を抱いていると告げられるんだぞ。へたすれば耐え難い衝撃でどうにかなる。脳震盪でも起こすんじゃないか」
「好きですって告白にそんな物理的な衝撃はないと思うよ。それに、相手が脳震盪を起こすくらいじゃあ告白した側にもとんでもない反作用が……」
「そんな危険な行為を好き好んでする輩の思考が理解できない」
「まあみんな露木君に理解してもらおうなんて気はさらさらないだろうし、安心していいとは思うけど……」
「馬鹿馬鹿しい。なにより、恋愛感情に踊らされてるうきうきピーポーは他人様の気持ちを考えられないやつが多すぎる。世の中にはおれみたいな孤独を持て余してるようなやつだっているんだよ」
いやあ、と七瀬は苦笑した。
「知らないなあ。知らないなあ。ぶっちゃけ関係ないし」
「関係ないだ? うきうきピーポーの存在がおれのような人間にどれほどの精神的ストレスを与えてることか」
「だから知らないし。なに、妬み嫉み僻みでバレンタインが嫌いなの?」
「おれが嫌いなのはバレンタインじゃない」
「うきうきピーポーとやらでしょう?」
「そうだ。だからバレンタインと同時にクリスマスも嫌いだ」
ええ、と心底引いたように視線を送り、七瀬は潤から離れるように体を傾けた。
「かわいそう……。露木君、かわいそう……」
「言いたければ言えばいいさ。こっちだってあちこちのうきうきピーポーを呪ってやる」
「本当かわいそう」
「楽しそうなやつらなんて糞くらえだ。糞をくらえだ」
「二回言った」
「大事なことだからな」
「まあ確かに大勢がいきなり糞をくらったら一大事だけど」
潤は小さく吸った息をぼそりと「そっちじゃねえよ」と吐き出した。



