透明な海



隣の席に鞄を置いた七瀬から、どこか明るい雰囲気を感じた。

「なんかあったのか」潤は言った。

んふふ、と彼女は笑う。

「今週末、友達に映画誘われちゃって」

「へえ。……えっ?」

経験ねえの、と問うと、そういうことじゃないときっぱり返された。

「この間からやってる『耽美』観に行くんだけどさあ。あれ絶対おもしろいじゃん?」

「へえ」

「『へえ』?」

「いや、七瀬もああいうの好きなんだと思って。ああ、深い意味はねえ」

「なんの保険? あれのさあ、予告編の最後とかうまくない? 薄暗いところで刃物持った女の人ぎゅってするとか」

「素直なんだな」

「えっ、見下された?」

「そんなつもりは微塵もなかったけど」

「いやあ、どんな感じなんだろう。恋愛ものなんだかミステリーものなんだか」

「さあ」

「露木君は好みじゃない感じ?」

「いや、興味はある」

潤は机の中から持ってきた本を出した。

机の上にそれを置きながら、「だから借りてきた」と続ける。

「……なにそれ?」

潤は表紙のブックカバーを外した。

「『耽美』。原作」

「ええ、あれって小説原作なの?」

「らしい」

「へえ。……てか露木君、読んでもいいけど、ネタバレしないでね。したら頭突きする」

「どんな攻撃だよ。しねえって、痛いの嫌いだし」

「よし」

ああそうだ、と潤は言った。

「貴様のうかうかモードに刺激を与えてやる」

「ええ?」