透明な海



水とともに鍋に入れて沸騰を待っていたレモンの皮はレモンピールへの成長が目的で、潤は手慣れた動作で作業を進めていく。

最後、クッキングシートを敷いた皿に並べ、グラニュー糖を振りかけた。


キッチンを出ると、テレビの画面では若い女性アナウンサーが俳優にインタビューしていた。

つい先日、彼が主演を務める映画が公開されたためだ。

テレビ画面の中で、ありふれたやりとりのあと、アナウンサーが話を切り出した。

「今回の映画、『耽美』の大きなテーマともなっている『感情』。大川さんにとって、この『感情』ってどんなものですか?」

大川は斜め上方へ視線をやり、小さく唸った。やがてアナウンサーにその視線を戻す。

「その人を作るすべて――とか?」

彼は小さく、照れ隠しのように苦笑した。

「ほう。『その人を作るすべて』」

「ええ。感情って、人が動くすべてかなと思って。感情の動きが、その人の性格までも作ってるような。同じことをされても、人によって、なんなら、同じ人でもその瞬間の感情によって、出てくる感情が違う。そしてその出てきた感情、その種類と大きさを基に行動を起こす。そう考えると、『感情』ってその人を作るすべて――かなと。まあ僕は彼――藤枝とはちょっと違うんで、それが美しいっていう考えとは少し違うんですけど」

アナウンサーは大きく何度か頷いた。

「なるほど。ちなみに――」


静香が声を出してあくびをした。

「ていうか、この映画おもしろいのかな」彼女は言った。

「さあ、どうなんだろう。あまりないような雰囲気ではあるけど」

「奇をてらって失敗するって、結構ありがちだけどね。せっかくじゃ貫いてほしい。珍しさ」

「評論家か」

「潤ってば本当に嫌な言い方するね。素直な感想だよ」

「へえ」

「それで? 潤はこれ観るの?」

「まあ、テレビでやれば観るかな」

「わざわざ映画館行くほど期待はしてない、と?」

「お前も充分嫌な言い方してんぞ」

「きょうだいって似るよね」

「親子みたいに言うなし」

「潤みたいな親は結構嫌だよ、わたし」

「なに、塩の剣で深めに切ってったじゃん」

「切りながら傷口に塩塗る、みたいな。いいなそれ、塩の剣ほしいな」

「持ってんじゃんか」

「実際に、だよ」

「……やっぱ、一番怖いのって生きた人間だな」

「なに、しみじみと」

「お前が種だ」

馬鹿と続けると、静香は馬鹿じゃないしと声を重ねてきた。