透明な海



向かい側にある私室に入った。

本棚の前の床に置いてある図書館の袋から一冊抜き取り、机の引き出しに保管してある黄緑色のブックカバーを手に取る。カバー全体に白の輪郭で雪輪模様が描かれたものだ。

袋から抜き取った一冊にそのカバーをつけ、葉の形をした緑色の栞を初めのページに挟んだ。


リビングに戻り、潤は「起きた?」という母の声に「起きた」と短く答えた。

ダイニングテーブルに本を置くと、静香があくびをしながらリビングに入ってきた。

「おはよう」と言う母へ「おはよう」と返し、彼女は潤へ「蜂蜜レモン」と働き掛けた。「ご注文承りました」と返し、潤はキッチンに入った。

「どっち?」と声を投げると、「温かいの」とリビングから返ってきた。

潤は作業台にマグカップを二つと五百ミリリットルが入る紙コップを用意し、蜂蜜の瓶を開けた。ハニースプーンで適量の蜂蜜をマグカップに入れ、八等分に切ったレモンをそこに絞る。

二つのマグカップにポットの湯、紙コップに水を注ぎ、マドラーでかき混ぜる。


ダイニングテーブルにカップを置くと、「いい朝だ」と静香は微かに口角を上げた。

「静香もずいぶん穏やかな子に育ったねえ」

母が言うと、静香は「うるさい」と短く返した。

潤は妹にハニースプーンを渡してキッチンに戻り、鍋に水と細切りにしたレモンの皮を入れ、火にかけた。

床に置いてあるダンボール箱から空のペットボトルを一本取り出す。母親が度々飲み物を作っては他人(ひと)に配るのだが、そのために通販で購入されているものだ。

紙コップの中身をそれに注いで蓋を閉め、まな板に残った果肉の使い道に思考を巡らせる。

「やっぱ簡単なのに限るな」

小さく声を発し、彼はもう一つの鍋に牛乳と砂糖を入れて火にかけた。沸騰させぬように温めながら、砂糖を溶かす。

今回は二百五十ミリリットルの牛乳に大さじ三杯の砂糖だ。

湯にゼラチンを溶かし、砂糖を溶かした牛乳に百五十ミリリットルの牛乳を足し、湯に溶いたゼラチンを加えてよく混ぜる。

火を止めてレモンの果肉を加え、適当な容器に移して粗熱を取ってから冷蔵庫に入れる。