透明な海



読み終えた本を閉じてテーブルに置き、潤ははあと息をついて蜂蜜レモンを一口飲んだ。

「お疲れ」と静香は言う。

「おもしろかった?」

「……ありふれた物語かな」

「冷たいねえ、本当に。作家さんは頑張って書いたんだろうに」

「それがおれの感想だ。中には、かなり好みに合った人もいるんじゃねえの?」

「そういうところが冷めてるって言ってるの。冷めてるって言えば小洒落感出るけど、やっぱり、思考回路がけがれてる」

「お前は純粋なまま年齢を重ねろよ」

「まあ、潤ほどはけがれないと思う。『潤』なんて綺麗な名前なのに、見事に負けてるよね」

「無慈悲」

「どう思いやれと?」

「おれだってこうなりたくてこうなったわけじゃねえ」

「わたしに愚痴られてもねえ」

「助けは求めちゃいない」

「本当、どう思いやれと」

小さく続けられた「こんなやつ」を、潤は同じように復唱した。

「なにを考えてるか知らないけど、もうちょっと純粋に楽しんだ方がいいんじゃない?」

「……愚かしい」

「おろかしい? どういう意味?」

「馬鹿馬鹿しいって意味だよ。馬鹿を愚かって言うだろ」

「ふうん。楽しむのって馬鹿馬鹿しいかな」

「些細なことに一喜一憂する様が、もうなんとも。くだらない」

「そう言う割に、潤だって小さなことに感情出してるじゃん」

「そんなおれ自身も含め、だよ」

潤は蜂蜜レモンを口に含んだ。そっと飲み下せば、喉がこくりと音を鳴らした。