透明な海



校門を出てしばらくしたところで七瀬と別れ、潤は近所の図書館へ向かった。家にある本をすべて読み終えてしまったのを思い出した。


館内では、開いた書籍を一瞥してノートへ筆記用具を走らせる若者や学生服を着た人の姿が目に入った。

潤は小説が並ぶ棚を眺め、目に留まったものを腕の中で重ねていった。

腕の中の書籍が貸出上限の十五冊に達したところでそこを離れ、手続きを済ませて図書館を出た。

建物を出て右側に、ベンチが置いてある植物の多い空間があり、そこに子供を連れた女性がいた。女性は二人、子供は三人だ。

幼稚園生くらいに見える幼子の無垢な笑顔に、潤は複雑な思いが胸中に湧くのを感じた。


数メートル先に赤い光を認め、足を止めた。

あとからきた少女の声が耳を刺す。

「ああそうだ」

「なに?」

「今日ね、うちずっと思ってんの」

「うん」

「今日さ、なんか重力弱くね?」

「ん?」

「重力。今日なんか、ずっと弱くね?」

「いやわかんない」

「まじで?」

「うん。全然わかんない」

「嘘だね。絶対今日、体軽いもん。なんなら浮く気がするもん」

「まじで、本当?」

「本当だって。ちょっとさ、ほら、飛んでみ?」

「いや、あたしに働いてる重力いつもと変わんないし。リンの精神と違って」

「精神?」

「完全にリンの精神でしょ、重力働いてないの」

「嘘、うち本気だよ?」

「ちょっとやばくない?」

「いやまじで本当だって。飛んでみ? 跳ねてみ?」

まじで、と聞き返す少女の声に、もう一方の少女の声がまじでと言い切る。

飛び跳ねるような足音が続くと、「どう?」と少女の声が言った。

「いやわかんない」ともう一方の少女の声は答える。

「まじでかあ」

「まじでだあ」


数メートル先の光が青に変わり、潤は足元の地面を蹴った。