潤は机に突っ伏した。
「どうした」と七瀬の声が降ってくる。
「……別に」
「通学路で楽しそうなカップルに遭遇しただけだ、って感じ?」
「いや」
「なに、機嫌斜めってるの?」
「いや。おれは感情の制御ができない人間を軽蔑する」
「へえ、露木君に感情の制御ができるイメージはないけど」
潤は苦笑して顔を上げた。
「お前失礼だな」
「だって本当じゃん。制御できてたらバレンタインに平将門の命日だなんてイメージ植え付けないでしょう」
「そんなことねえだろ、ありゃあただの豆知識だ」
「役に立たないし」
「他人様に教えてやればよかろう」
「誰がそんなこと知りたいよ? 以降毎年バレンタインに気が滅入るわ」
「ていうか、おれは二月十四日の豆知識として、平将門の命日であることだけを伝えたわけじゃない」
「はあ?」
「岡倉天心の誕生日だとも言ったろう」
「ああ、あのおいしそうな人ね。でも命日の方が残るじゃん」
「そこまでは構ってやれねえし」
「構ってよ」
「かまってちゃんかよ」
「はあ?」と低く発す七瀬へ、潤も同じように返した。