しばらく手元の画面を眺め、特別な表情を作らずにいたななだったが、やがて悲しげな複雑な表情を浮かべた。
「……少し前にさ、器物損壊の事件、あったじゃん?」
どきりとした。
「あれの犯人、逮捕されたみたいなんだけどさ。動機がイライラしたからなんだって」
「……そうか」
「十八歳の少年だって。この事件、十織の通ってる学校の近くで起きたんだよね? 気を付けてよ? 他にもこういう人いるだろうし。いや、この辺りにはいないだなんて言い切れはしないけどさ」
「うん、わかるよ。確かに、そういう事件があると途端にその地域が危険な場所だって思っちゃうから」
「うん……」
十八歳の少年、か――。
感じているのかも不確かだった嫌なにおいが確信に変わっていくような感覚だった。
一部の生徒の間、そのそれぞれの心中で、彼に対する「危険」という印象は確信に似た形でこびりつくだろうと思った。
十織の中ででさえ、疑いに似たなにかが内と外を隔てる色の濃い膜に触れている。いや、もはや強くはなくとも確かに疑っているのかもしれない。
「なんで感情的になってものに当たっちゃうかね」
馬鹿なのかな――。ななの声が、いやにはっきりと鼓膜を揺らした。
「制御できないなにかに、突き動かされたのかもしれない」
「なに、その制御できないなにかって。ただの衝動でしょう。そんなもの、普通は理性が働いて抑えられる」
「……うん、そうだね」
「……十織、優しすぎだよ。確かに、この犯人になにか抑えきれなかった理由があったのかもしれない。そういうことも、可能性としては十分にある。でも、事実は事実。この少年は、衝動を抑えられず、危険な行動を起こした。これがものじゃなく人間が相手だったら危険な人でしかない。こんなの、ドラマでありがちな、口論になってそばにあった包丁で刺しちゃうみたいなものじゃん」
少しの静寂のあと、ななは「ごめん」と呟いた。
「十織を否定してるわけじゃなくて。ただ、十織の学校の近くで起きた事件だし、十織がその優しさゆえに危険な目に遭ったら……嫌で……」
「うん、ありがとう」
「いや……。十織も、少しは否定することを覚えた方がいいよ。危ないから。それに、別に全人類を認めて受け入れなきゃいけないなんて決まりはないんだから」
誰も誰もを否定して突き放しちゃうよりいいんだろうけど、とななは静かに締めくくった。



