「通学路気をつけろよ」と言う母親をいつものように「通勤路気をつけろよ」と見送った。
リビングに入ってきた静香へ、「焼きおにぎりと塩おにぎりどっちがいい?」と問う。
「蜂蜜レモン」と言う彼女へ「おう」と返すと、「塩」と返ってきた。
「白い方な」と言って二つの握り飯をダイニングテーブルに残し、「わかってる」という妹の声を背中に聞きながら、潤はキッチンに入った。
「冷たいやつ?」と問い掛けるとぽつりと「馬鹿じゃないの」と返され、「了解」と短く返す。
白地に茶色の熊のキャラクターの顔が向きをばらばらに描かれたマグカップと、白地に黄緑色の葉が、熊の顔と同じように描かれたマグカップを取り出す。
熊のキャラクターのものは、静香が友人に遊園地に行った際の土産としてもらったもので、葉が描かれた潤のものは、静香が土産をもらう少し前に雑貨屋で購入したものだ。
カップに蜂蜜を入れ、ポットの湯を注いでよく混ぜ、切ったレモンを絞る。そして輪切りのレモンを浮かべれば完成だ。
難しい作業はないが、蜂蜜とレモンの割合によって味が大きく変わる。自他ともに認める美味な「蜂蜜レモン」を作るのが、今の潤の小さな夢だ。
自分のカップにも同じものを作り、潤は蜂蜜スプーンと静香のマグカップを持ってキッチンを出た。
「無駄なくお舐め」とスプーンを渡し、続けてマグカップも渡した。
ずずずと慎重にマグカップの中身をすすり、静香は「うまい」と声を発した。
「やるじゃん」と笑みを見せる妹へ、潤は胸の少し下に手を当てて軽く腰を折った。



