透明な海



「私立」の冠に続き、学校名を刻んだ札を抱える校門を通る。

じわじわと話し声が響く昇降口に上履きを放った。


「2-F」の文字を掲げる教室もまた、昇降口と同じように話し声が飛び交っていた。

窓際の自席に鞄を置くと、「おお」と隣の席の男子生徒が声を発した。

「下谷聞いた?」

「なにを?」

「あの先輩が退学するって噂が充満してるんだよ」

「それは……」

「なんでも、この間ニュースになってた器物損壊の事件あるでしょう、あれ、あの人がやったんだって。まあ、噂の域は出てないけどね」

「そうか……」

「あれもまた、魔手とやらによるものなのかねえ」男子生徒はふっと笑いを挟んだ。「悪魔の獣、恐るべしだよ」


悪魔の獣――。この学校で、俗に言う「問題児」のレッテルを貼られた男子生徒の異名だ。

彼は度々、校内で威圧的な態度を取った。時には暴力を振るったという噂もあった。

しかし同時に、成績は非常に優秀であるとの噂もあった。

度々威圧的な態度を取り、時には暴力さえ振るう――そんな噂が浸透した彼に退学の噂が加われば、少し前に近辺で発生した器物損壊事件と結び付けられてしまうのもわからないではない。


十織は強く、祈りのような思いを抱いた。