「うん。幸せな人間、かな」
「そうか」
想定外、といえばそうだった。わからないと困らせるような問いだと思っていた。
「動植物が好きで、ななが大好きで、露木君と友達でいられる、最高に幸せな人間」
「そうか」
「なにより、この幸せに気づけた。もう、おれより幸せな人なんてそうそういないんじゃないかな」
「……そうかもしれないな」
「満ち足りてる、本当に。もう充分だ」
「そう」
「でもやっぱり、先輩の今を知りたい」
「……そうか」
「どうしてるだろう。どんな場所で働いて、どんな人といるんだろう」
どうだろうなと潤は言った。
十織がどんな気持ちでこう語るのかはわからない。
まだ確かに明るい可能性を自分に言い聞かせているのかもしれないし、どこかでそうしているのかもしれないし、確かにそれを信じているのかもしれない。
ふと、十織が後方を振り返った。
潤も反射的に振り返ったが、なにも変わったものはなかった。
「……どうした?」
「ううん、なんでもない。なんとなく、先輩も幸せな気がした」
「そうか。よかったな」
「なんか、身近に感じた」
「もしかしたら、あのバドミントンの男の方がその『先輩』かもしんねえしな」
「そうだね」