透明な海



しばらくの沈黙に、十織は「今の露木君にとってさ」と言った。「なに?」と潤は返す。

「人間って、どんな存在?」

「ええ……? ああ、無限かな」

「おお、無限」

「ああ。十織といるようになったからだけどな。なにも貪欲で感情に操られてるようなやつばっかりじゃないって、わかった。いや、今までもどこかではわかってたんだろうけど、今はそれが確信になった」

「そうか」

「十織にとっては? 人間って」

「おれはね、ずっと思ってるんだ」

「ほう」

「人間って、海みたいだなって」

おっと、と潤は目元を手で覆った。

「海」と復唱しながら手を下ろす。

「そう」

「そりゃなんで?」

「純粋で、ゆえに世界の色もわかっちゃうから」

「ふうん?」

「海って、本当は透明でしょう? でも、晴れた昼には青、夕方には赤、曇った日には灰色とか白、夜には黒って、いろんな色に見える」

十織の声を聞きながら、潤は様々な色の海を思い浮かべた。

「実際はいつの海も透明なのに」

「そうだな?」

「そして海は、自然の影響を受けやすい。強い雨風が襲えば荒れて、晴れてるときは自分のペースを乱さずに寄せては返すを繰り返す」

「うん」

「人間も同じだなって思うんだ」

十織は天を仰いだ。

「晴れてるとき――大きな刺激がないときには自分のペースで動いて、強い刺激が加わると、途端にそのペースが乱れる。突き動かされた感情とか欲望によって。

そしてそれを遠巻きにして見ると、世界の色がわかる。アンケートを取って結果をグラフにしたときなんかは特にそうなるね。

おれは、人間のこんな人間らしいところが大好きなんだ。綺麗だから」

「綺麗、か」

「うん。刺激を受けて、なにかを思って、感じて、考えて、行動を起こす。そのすべてが、おれは好き。そういうのって全部、生きるためだったり生きてるためじゃん。生きるためになにかを考えて、生きてるためになにかを思って、生きるために動く」

「人間はどこまでも純粋だと?」

「おれはそう思う」

「……自分のことは?」

「え?」

「自分のことは、どう思う?」

そうだな、と十織は困ったように笑みを浮かべた。