家の敷地を出ると、「おっ」と聞き慣れた声が耳に届いた。十織だった。
「ああ、家近くなんだっけな」
「ここまっすぐ行ったところ」と、十織は後方を人差し指で示した。
「花がいっぱいだからすぐわかるよ」
「へえ。そんないっぱいあるんだ?」
「言う人に言わせれば『西洋が舞台の映像作品の出だしに使われそう』ってくらい」
「ああ……ちょっとわかんない」
そうか、と十織は苦笑した。
公園のベンチに腰を下ろし、潤は「あのさ」と声を発した。
「ん?」と十織は穏やかな声を返す。
「今度、梨狩り行く?」
「……え?」
「梨狩り」
「……梨?」
「お前の最後の夢、梨狩りなんじゃねえの?」
十織は「いいや」とかぶりを振り、「なんで?」と笑った。
潤は「まじか」と苦笑し、頭を抱えた。
「いやな?」と言って頭を上げる。
「昨日、妹と一緒にめっちゃ考えたんだわ」
「え、おれの最後の夢?」
「ああ。スーパーだの薬局、病院に始まり、マッサージ屋だのトイレだのを経てようやく辿り着いたのが梨狩りだ」
「その道を辿ることになった理由も興味深いけど、なんで梨狩りに落ち着いたの?」
「お前、前に『梨』って言ったんだよ。正解とか肯定とかについて話すとき」
「ああ、そうだね」
「そんでまず、生き物が関係するっていうヒントを基に、食事に辿り着いたんだ。それで、お前が発した食べ物の名前で、好きな食べ物を探ろうとした。で、梨を思い出した。今ちょうど旬の種類もあるし、その場所には人間もいるだろうって」
「ええ……すごいね。ますますスーパーとか薬局が気になる」
「いや」と苦笑して、潤は「それは知らなくていい」と返した。