歯を磨き、顔を洗ってリビングに入った。
キッチンから放られたものを受け取り、「今日の朝餉だ」と言う母親へ「食べ物を御粗末にするんじゃねえよ」と返す。
「バスケットボールおにぎりだ」と言う声で手元の温かさを確認すると、茶色の米の塊に細い海苔でバスケットボールのような模様が成されていた。
「投げていい理由になんかなってねえし」
「かわいいだろう? 焼きおにぎりに海苔で模様つけたんだ」
「変に手が込んでて怖いんだけど」
「あたしの気まぐれだ」
ありがたいと思えと言う母親の声に、はいはいと返して潤はちらりと舌を出す。
「あとこれ」
「だから投げんな」と声を返す彼の手に入ってきたのは、野球ボールを模したのであろう白い球形の握り飯だった。これにも海苔で模様が成されている。
「静香の分ってつもりだったが、好きな方食べたまえ」
「確認だけど、これは野球ボールのつもりなんだよな?」
「つもりもなにも、それにしか見えんだろう」
潤は手元の白い球を見て苦笑する。
「ああ……そうだな……」
「そんじゃ、あたしは仕事行くから。静香と仲良くしたまえよ」
また額にあおたん作られるなよと笑って、母親はキッチンから出てくる。
授業参観の度にクラスメイトに美人だと言われていた母親は、確かに見た目だけなら悪くないかもしれない。
潤も似た優しい目に、本人へ「ゴムが落ちる」と言わせる絡まりのない長い黒髪、白く余計なもののない肌、色も形も薄い唇。
客観的に見れば和風美人という言葉が似合うかもしれない。
教室で「喋らなければ完璧だよね」だの「動かなければ最高だよね」だのと散々な評価が下されている教師がいるが、彼女はまさにその類だ。



