透明な海



「生きるのに必要なんでしょ? じゃあ、呼吸」

「呼吸できねえ場所ってどこだ」

「水中」

「今あいつ水中にいねえし。おれの友達普通に人間なんだわ」

「ああ、そう」

「まじめに考えろって」

「いや、中学生の妹の頭脳あてにしてる潤に言われたくないし」

「どうもすみません」

ええ、と潤は声を伸ばした。

「どこだ……?」

「睡眠でも呼吸でも、排泄でもない。じゃあ、食事?」

あっ、と声が出た。

「そうじゃん。なんでもっと早く出なかったかな」

「わたしのせい?」

「お前がくだらねえこと言ってっから」

「いや、結構本気で考えた結果だったんだけど」

「『トイレ』が?」

「うるさい。潤が『生きるのに必要』とかあいまいなヒントしかよこさねえから」

「そりゃ悪かったわ」

「素直でよろしい。で、その友達が好きな食べ物って?」

「わかんねえ」

「はあ?」

「わからない」

「いや、丁寧に言い直してほしいわけじゃないんだけど。友達なのに好きな食べ物も知らないの?」

「いや、普通そうそう知らねえだろ」

「そうなの?」

「静香知ってる? 友達の好きな食べ物」

「知ってるよ。ひじき、切り干し大根、さばの味噌煮、なすの味噌汁」

「友達いくつだよ」

「同級生だけど」

「わかった。お前の同級生はいい。おれの友達について考えてくれ」

「いや、潤の友達とか知らないし」

「そこをなんとか」

「五百円くれるっていうなら手伝ってあげないこともないけど」

「わかった。五百円くらいある限りやる」

「五百円玉だよ?」

「やる。何枚でもやる」

「純粋なお金への欲望で五百円玉要求してるんだけど」

「別にいい。今回は特別だ」

静香は頬杖をついた。にやりと口角を上げる。

「本当に大切な友達なんだね」