しばらく土手を歩いて、潤は「おっ」と声を漏らした。
「……十織じゃん」
十織は寝転んだまま視線を上げた。
「ああ、露木君」
「えっ、なにしてんの?」
「自然音鑑賞」
「一人でもこんなことしてんだ」
「一人だからこそしてたんだ」
「家の植物とは話さねえの?」
「出掛ける前に充分話してきた」
「……え、なんて返ってきた?」
「なにも返ってこないよ」
「ああ、やっぱりそうなんだ」
「ただの愛情表現だから」
「……そうか」
「露木君はなにしに?」
「……いや、なんかもうどっかしらに出掛けるのが当然になってきちまってるから。特に意味はねえけどきてみた。ら、お前がいた」
「ちょっと、こっそり露木君のこと呼んでたんだ」十織は組んだ腕の上で空を眺めながら言った。
潤は下ろしかけた腰を止め、すぐに上げた。
「怖い怖い。まじ洒落んなんねえし」
「え、帰るの?」
「当たり前だろうが。くそ怖えわ。この世に留まった魂なんかよりうんと怖えっつうの」
「え、冗談なんだけど」
「え、そう聞こえねえんだけど。まじ冗談?」
「に決まってるじゃん」
「お前はちょっと自分を知れ。まじで洒落んなんねえから」
「そんなに?」
「なんかそういうことできそうな雰囲気持ってんだよ」
「嫌だねえ、おれだってなんの変哲もない人間だよ?」
潤は深く息をつきながら十織の隣に腰を下ろし、仰向けに寝転んだ。
「こういうこと言われるのにトラウマがあるのは知ってるしそれえぐるようなこと言って申し訳ねえけど、まじで怖えから」
「おれってなにが違うんだろう?」
「ええ……なんだろうな。雰囲気」
「それはもうどうしようもないね」
「喋り方じゃねえ? なんかその、やたら落ち着いた感じ」
「え、狂った感じで言った方がよかった? ちょっと目見開いて息荒くして」
「ああごめんおれが間違ってた」
「だよねえ。なんだろう」
「なんだろうな。別に普通なやつなんだけど」
「まあいいか」
「え?」
「そう言ってくれる人がいるだけで充分だよ」
「……そう」
十織は「うん」と静かに頷いた。