さっさと歯磨きと洗顔を済ませ、起きた直後の癖がすっかりなくなった髪の毛に軽く櫛を通して長い廊下を走った。
寸前のところで止まるように走りをぴたりと止め、三分は大きいぞと思いながら靴を履く。
玄関の両脇を彩る花々に「行ってきます」と声を掛け、家の敷地全体に咲く花々には敷地を出る直前に「行ってきます」と一度に声を掛けた。
健康状態の確認がという思いに胸中を染められるのを自覚しながら、十織は自転車のペダルを踏み込んだ。
狭い道に連なる家のうち、鮮やかな赤の屋根を載せた家の前で両手でブレーキを握った。白の門の脇に出された表札には「遠藤」と刻まれている。十織の母親の弟の家族が暮らしている。
「よお十織、遅かったな」
聞き慣れた男の声に、十織は「ごめん」と短く返す。
「寝坊か?」
言いながら門を出てくる男はこの家の長男で、十織と同じ学年だ。
「起きた時間は正常だったよ」
「ほう。ああわかった、アムロと遊んでたな?」
「アムールね」
はははと愉快そうに笑う、紺色のブレザーに濃紺のズボンという制服のいとこへ、十織は自転車を渡す。
「お預かりします」と笑みを見せるいとこへ、十織は「よろしくお願いします」と同じように返す。



