「露木君、先輩にとって、今、おれは『人生の転機を与えた人』になってるかもしれないって言ったじゃん」
「ああ、そういえば」
「おれにとってのそれ、露木君だよ」
おう、と潤は苦笑した。
「なーんか時々気持ち悪い言葉出てくんだよなあ」
「飾り気のないおれの本心だよ」
「じゃあ、そのまま返すよ」
「なんで?」
「『なんで』? いや、普通にそのままの意味だけど。十織もおれに人生の転機くれたやつだから」
「なんか嬉しいな」
「はあ?」
「人のためになれた気がして」
「へえ……」
はあ、と十織は短く息をついた。彼の手元のカップから水滴が落ちる。アスファルトを濡らした水滴の上を小さな蟻が歩く。
「人付き合いって、素敵なものだね。いろんなものを運んでくる」
「いいものばっかでもねえけどな」
「そうかな?」
「じゃなきゃ現状に疲れ果てて自ら死を望むようなやつはいない」
「……そうだね」
「なんかお前って危なっかしいよな。なんも知らないまっさらな子供みてえで。なんか、おっかなさ知らねえで火に手突っ込んじまうみたいなところありそうで」
「火に手は入れないよ? 痛みは好まない」
「たとえだよばーか」
「じゃあ、いつかおれが火に手突っ込んでやけどしたら、手当てしてよ」
「嫌だ」
「ええ……冷たい。やけどしたときは冷やせってこと?」
「馬鹿じゃねえの。七瀬がいんだろうが」
「ななには負担かけたくないんだよ」
「おれならいいってか」
「露木君は友達だから」
「まあ、七瀬がおれ以上の存在でなによりなんだけど」
ふっと潤は笑った。
「まあいい、アイシングパックぐらいなら用意してやる」
「やった」
「悪化しても知らねえけどな」
「露木君といて悪化することはないと思う」
「わかんねえぞ? まだ夏休み半分くらいしか一緒にいねえんだぞ」
「毎日だよ? ある程度もうわかってるよ」
「まあ確かに、会って数日で身長体重言い当てられたしな」
「ああ、あれはなんかごめん」
「まじでぞっとしたかんね」
「今日も見てあげようか?」
「まじで無理。まじ結構。気持ちだけで限界」
「健康診断だよ」
「身長体重だけでなにがわかんだよ」
見るなよと言って潤は十織から距離を置いた。
「見たら殺す」
「物騒だなあ」
「おれは七瀬じゃねえかんな。頭突きじゃ済まさねえぞ」
「これは見ちゃいけないね」
「見るなら自分の状態だけ見とけ」
「今日は六十三くらいだと思う」
「ああ、ちょっと増えてる。つかなんでわかんだよ? ちょっとその機能欲しいんだけど」
「基準があるじゃん、自分の中で。基本的にこれくらいっていう。それよりちょっと重いとか軽いとかで」
「あとは?」
「勘」
「うわあ……『あいまーい』とか言おうとしたけどお前のそれめっちゃ正確なんだよな」
「今のところ、五百グラムまでの誤差をないものとできたら的中率百パーセントだよ。結果がある限りね」
「あーっはやっべ、まーじやべえやつだ。視界に入ったらアウトなやつ」
ちょっとと言って、潤は腰を上げた。手元のカップの中身を喉に流し、「次行こうぜ」と提案した。「な? 行こう?」と続ける。
「つかお前、なにをどう間違ってもその機能七瀬に使うなよ?」
「いまさら他人の身長体重なんて興味ないよ」
「他人の身長体重に興味のある小学生だった時点でもうやばいけどな」
行こうかと腰を上げる十織へ、潤はそうしようと即座に返した。



