「今年の夏休みが一番、人と一緒にいる時間が多い」
「そうか。今までどんな夏休みだったんだ?」
「家の植物と話してた」
「ん?」
「家にいっぱい植物があるんだ。それと話してることが多かった」
「ごめん、ちょっとわかんねえ」
そうか、と十織は静かに笑った。
「え、十織植物と会話すんの?」
「うん」
「ちなみに……具体的にどんなことを?」
「『おはよう』とか『元気?』とか、『今日も綺麗だね』、『今日もかわいいね』って」
「おお……新婚かな」
「そんな感じかもね」
「まじか」
「おかしいと思った?」
「いや? いいんじゃねえ、それで」
「嫌だな、露木君までおれに気をつかうの?」
「気なんかつかってねえよ。思ったことを言っただけ。ぶっちゃけ、友達が植物相手になに喋っててもおれに害ねえし」
「まあ、それもそうか」
いやな、と潤は言った。「おれも、お前の姿勢見習おうかと思って」
「見習えるようなところある?」
おれだよ、と十織は苦笑する。
「その、否定も肯定もしないって姿勢。いいなと思って。ストレス溜まんなそうだなって。実際、お前がいらいらしてるところとか見たことねえし」
「露木君といる間だけかもしれないよ? 裏じゃあ結構、感情に飲まれる『愚か者』だったりして」
「お前もよく覚えてるな」
潤が苦笑すると、十織は「まあね」と得意げに笑った。
「人間、自分にとって大きな出来事に関してはよく覚えてるものなんだよ」
「大きな出来事、ねえ」
これからは七瀬との時間だけ覚えていられるようになればいいと思った。直後、柄じゃねえなと潤は密かに苦笑した。
十織といるようになってからこんなことが多い。
これが本当の「友達」というやつなのかもしれない――。
密かにそんなことを考えると、なんだかくすぐったくなった。
今までの潤ならば、どれも「愚かしい」の一言で片を付けてしまうようなことだ。
おれも七瀬に感謝すべきなのかな――。
彼女がいなければ、下谷十織という男に関心を持たなかった。
その場合、当然、今のような仲にはなっていなかっただろう。
七瀬のおかげでおれに会えたと十織は涙を流したが、それはこちらも同じだったのかもしれないと潤は思った。
夏休み明け、彼女の存在が自分の中で変わっていることは、彼にも容易に想像できた。



