「でもななは違う。なにかを求めてる人にそれを与えなきゃ気が済まないような人なんだ。根っから優しい人だから。それに寛大さと繊細さが加われば、痛いほどに他人の欲求を感じて、受け入れて、それを満たすようなことをするだろう」
言葉を並べる十織の穏やかな声を、潤は否定できなくなった。
自分も、彼の言っているようなことを七瀬にされたことがあるように思えたからだった。
自分のくだらない嫉妬心を茶化すような、的確な言葉を返してきた。
それを彼女の強さだと認識していたが、そうでもないのかもしれないと、彼は十織の声を聞きながら思った。
同時に、彼女のああいう言葉を求めていた自分に気づいたような気もした。
「だから」と、十織は声を続けた。
「なながおれといる時間が楽しいって言ってくれたとき、やっぱり申し訳なかった。おれは、自分がななと同じことを感じてることを望んでたから。それを汲んでああ言ってくれたのかもしれないと思った」
「……疑ってやるなよ」潤は言った。
「なにも、あいつが優しさと繊細さ、寛大さだけでできてるわけじゃねえだろ? 当然、あいつにも自我はある。それを基にお前との時間が楽しいと発した可能性、否定すんなよ。あいつの全部、そんなに疑うなよ」
十織が微かに笑うのを感じた。「そうだね」
はあと十織は息をついた。
「嫌になるね、このけがれきった自分」
「なにをそんなかっこつけたキャラクターみてえな。充分純粋だと思うけど?」
「おれにそんなこと言うの、露木君くらいだよ」
「別にいい」
「そう?」
「これがおれの事実で正解だ」
「よく覚えてるね」と苦笑する十織へ、「好きなことに関してはそこそこな記憶力発揮すんだよ」と返す。