「蜂蜜バナナのフレンチトーストよ」とダイニングテーブルに置かれた甘い香りを平らげ、洗った食器をかごに置いた。いくつかの水滴がシンクへ落ちる。
アムールの名を呼び、十織はそっと扉を開けた。
籠の中へ手を入れて「散歩しようか」と声を掛ければ、アムールは手に飛んでくる。
「行ってらっしゃい」とリビングの中央を向くと、さっと飛び立つ。
それを見送り、十織はマスクとゴム手袋を着用した。
母親が見守る放鳥の間、鳥籠の掃除をする。その籠の中の様子で、アムールの健康状態も確認する。
毎日の掃除の内容は簡単なもので、鳥籠の下のトレイに敷いてある新聞紙を新しいものに替え、鳥籠の底になっている金網の汚れを金属製のヘラで落とし、湯で濡らした雑巾で拭くというものだ。
金網をティッシュで拭きながら鳥籠の中を確認し、瀬戸物の容器に入れた食事や水の減り具合に胸をなでおろす。
容器に残ったシードの殻を捨て、新たなシードと、カルシウムの補給のため、一つまみのボレー粉を入れる。牡蠣の殻を砕いたものだ。
洗った容器に入れた水に、粉末のサプリメントを適量振り入れる。
食事と水の容器を鳥籠内に入れ、ウッドデッキにゴム手袋や金属製のヘラなど、洗った掃除用具を干す。
ウッドデッキから戻ると、母親がアムールと戯れていた。
「マユ」
「どうした、アムちゃん」
「キョウナニシヨウカ。ン?」
「そうだねえ。なにしようか」
母親のそばで、アムールは球形の遊具の中に入り、吊るされたおもちゃをいじる。
しばらくそうして、彼は球形の外側に止まった。器用に毛づくろいする。
「アムちゃん。そろそろおうち戻ろうか」
母親が言うと、アムールはぱたりと毛づくろいをやめた。
遊具の上で母親の方を向く。
「ヨカッタネ。キレイニナッタネ」
「うん、アムちゃん綺麗よ」
「キレイダネ」
「うん。綺麗、綺麗」
おうち戻ろうかと言う母親に小さく声を返すアムールから壁の時計に視線を移し、十織は「おっと」と声を漏らした。
「じゃあおれ、行ってきます」
「ああ、もうそんな時間なの」
母親は時計を確認して、まあと驚いたような声を続けた。
「じゃあ行ってらっしゃい。気を付けるのよ」
「はい」と短く返事して、十織はリビングを出ると洗面所へ向かった。



