「ああ……早く冬になんねえかなあ」
発した声は蝉の声に掻き消されてしまいそうだった。
「冬になったら逆のこと言うでしょう」
「まあな」
「ていうか露木君、夏と冬が好きなんでしょう?」
「まあな」
でもと続けて、潤はベンチに視線を落とした。
「このびちゃびちゃのベンチをごらんよ。真夏の公園、木の陰にあるベンチ。座らねえわけにはいかねえだろ」
「それは……まあ。わからないでもないかな」
「だろ? でもそれが昨日、あのあとめっちゃ続いた豪雨のせいでびっちゃびちゃよ。そりゃ夏も嫌いになるべ。ベンチが無理なら地面に座るってのも悪くねえけど、ベンチ以上にひどいことになるんだわ、けつが」
「まあまあ」
「お前は本当にこの夏休み楽しいのか?」
「楽しいよ。最高に楽しい」
「お前結構変わった感性してるよな」
「そうかな」
「こんなのが楽しいんだろ?」
「楽しいよ」
「お前って本当、なにもしらない子供みたいなやつだよな」
「そう?」
十織は木の幹に触れ、それに寄り掛かった。
「濡れねえ?」と問えば、「たぶん大丈夫」と頷く。