透明な海



「そろそろ帰ろうか」

十織は確認した左腕を下ろした。

「そうだな」

よっこいしょと腰を上げ、潤は空へ視線を投げた。

「なんか、曇ってね?」

「おや、本当だね」

言いながら立ち上がり、ふふっと笑う十織へ「なんで嬉しそうなんだよ」と苦笑する。

「さあ、本当に降ってきたら大変だよ」

少し先のアスファルトに足を置き、「帰ろう帰ろう」と言う彼に「言われなくても帰っし」と返す。

「これまじで途中からどちゃ降りってオチあんぞ」

「それは困るね」

「だからなんで――」

嬉しそうなんだよと言い切る前に、大きな雨粒が頬を濡らした。

えっ、と声が出た。直後、足の前のアスファルトが色を濃くした。

「降ってきちゃったね」と笑う十織の声を合図にしたように、大粒の雨がぱちぱちとアスファルトを叩き始めた。

「……お前、雨雲呼んだだろ」

「嫌だな、おれにそんな能力ないよ」

「さっきから嬉しそうにしやがって。もうびっしょびしょじゃねえか」

歩きながら、潤は腕を叩く雨粒を払った。

「天気予報で降るとかなってなかったし」

「自然のいたずらだね」

「これ絶対風邪引くじゃんか」

「そういうのも悪くないんじゃない?」

「わりいよ」

「友達と急な雨に見舞われて走って、次の日ちょっと風邪引くなんて」

「最悪じゃねえか」と言った声が、「最高じゃない?」と言う十織のそれと重なった。

「つか今めっちゃのんびり歩いてんだけど」

「じゃあ走ってみる?」

「好きにすりゃあいいけど」

「よし」と言って、十織は歩みを速めて走った。

潤は「まじか」と苦笑して彼の後に続く。