透明な海



空気の音――それがなんの隔たりもなく鼓膜を揺らす。けがれが浄化されるのに伴う虚無感を、潤は目を閉じて受け入れた。

雑踏や喧噪など、今までなら聞いているだけで不快になる音だった。

人間の欲が作り出すものとしか捉えていなかった。

それが、今は少し違う。無欲な純粋なものが出す音もあるのだと知った。

それは潤にとって大きな変化だった。少しばかり純粋になれた気さえする。いや、純粋になったのだ。


「おれの夢ってさ」十織は静かに言った。「まさにこれだったりもするんだ」

「これ?」

「この、特別なことはなにもしないっていう。友達と、ただいるだけって」

「へええ。本当に友達いないんだな」

「いないよ。ななのことはそれっぽい相手だと思ってたけど――」

「そうじゃなかったしな」と笑った声がそうじゃなかったしと笑った十織の声と重なった。

「だから、露木君に会えたのは本当に幸運だと思ってる」

「そんなのが幸運だなんて、よほど不運に見舞われた人生だったんだな」

「そんなことはないと思うけどね」

「まじでか」

「ほら――」

おれって変人だからと、十織は苦笑した。