「おれ、今猛烈な衝動と闘ってる」ベンチの隣で、十織は言った。

「なんで?」

「あそこに鳥がいるでしょう?」

「え?」と返すと、十織は前方を指で示した。「ああ」と気の抜けた声が出た。

「あんなところにあんな小さな生命体がいるんだよ。それにごはんをあげたいという衝動」

「まあ、最近は野鳥に餌あげるの禁じられてるからな」

「意地悪な決まり作るよね。あんなかわいい子見てたらあげたくもなるよ」

「まあ、人間なんて自分のことしか考えられねえ生き物だから」


はあと短く息をついて、潤は背もたれにもたれた。

「ところで十織、昨日どうだった?」

「ああ、特になにもしなかった」

「……なんで」

「おれたちって、そういう感じじゃないなって。一緒にはいたよ? でも、二人で遠出するとか、そういう特別なことは似合わないなって。ああ、これはななも同じこと言ってたよ」

「へえ。まあ、仲がいいならなによりだけど」

「基本、一緒にいられればいいみたいなところがあるから。お互い。昨日、それを再確認した。『尊びの笑顔』も拝めたよ」

「ふうん。楽しそうだな」

「楽しいよ」

「やっぱ糞くらえだ。うきうきピーポーなんて」

「露木君にも好きな人できるといいね」

「難しいだろうな。基本めんどくさがりだし」

「そうなんだ。もったいない。いい彼氏しそうなのに」

「誰目線だよ」

「友達目線。素直な感想だよ」

「おれ好みの女子なんているかね」

「どうだろうね。露木君みたいな男子が好みの女子も少なそうだけど」

さらりと言った十織へ、潤は「お前な」と苦笑した。

「今さっき『いい彼氏しそう』って言ったろうが」

「忘れてたんだよ、露木君が無欲で無感情な女子が好きなこと」

「そこまでは求めてない。欲と感情を制御できればいいんだ」

「なるほどね」

十織は軽やかに立ち上がった。くるりとこちらを振り返る。

「土手行かない?」